蒸しパンになりたい
アニメ「銀魂」75話の劇中、作者である空知先生がひとりごとを放つシーンがあった。
「チーズ蒸しパンになりたい。」
「チーズ蒸しパン 空知先生」と検索すれば、この言葉がどういう流れででてきたかわかると思う。一応文脈をざっくりと書くと、こんな感じ。
「漫画描くの面倒くさいな」
↓
「いや、もはや生きるの面倒くさいな」
↓
「んもう、チーズ蒸しパンになりたいな」
この気持ちが、本当によくわかる。
前までは「空知先生おもしろいな」と思っていた言葉だったのが、
今は、自分の身から染み出すくらい、自然と口から出る言葉になった。
「猫になりたい」とはちがう。
無機物になりたいから。
意識とか、思考とか、食欲とか、そういうものを取っ払いたい。
「花になりたい」ともちがう。
美しいとか、綺麗とか、いい香りだとか、誰かの五感を刺激したくない。
「風になりたい」ともちがう。
止まることを許されていないから、疲れちゃう。
「蒸しパンになりたい」
これしかない。
「好きな食べ物なに?」と聞かれて、「蒸しパン」と答える人はそういない。
開口一番に「蒸しパン」と答える人は、
たぶん蒸しパン専門店の人か、人とは違うことを言ってみたい人のどれかじゃないのかな。偏見だったらごめんね。
「好きな食べ物」の話が出たとたん、
「カレー」「らーめん」「チョコ」「焼肉」あたりが、腕ブンブン振り回しながら
舞台裏で待っている。
蒸しパンは、やつらとは違う。
蒸しパンはこの世になくてもいい。
この世からなくなっても、たぶん気づかれない。
7カ月くらいして、誰かが「あれ?蒸しパンは?」て気づくくらいの存在感。
でも、無いとわかると、少し心が滲むくらいのやつ。
蒸しパンは、ほとんど空気だ。
ぎゅっと潰したら、ビー玉くらいになる。
食べてもお腹の足しになるわけでもない。
ほんのり甘くて、口寂しさを無心に紛らわせてくれるやつ。
私も、蒸しパンになりたい。
誰かをほんのちょっと甘くするくらいでよくて、忘れてくれてもいい。
気づかないでいてくれてもいい。
部屋の隅で変顔していたい。
責任とか社会の常識とか、そういうものから一旦外れて、
定まらない状態になりたい。
ふにゃふにゃで許されたい。
もちもちして、ふわふわで、何の意味もない。
けど甘くてほんわかしてる。
私は蒸しパンになりたい。